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Vol. 2 ありのまま、ブータン

Vol. 2 ありのまま、ブータン 虹のおはなし

2015.07.17

ブータンの四季は日本と同じ、春夏秋冬があります。
いま、6月半ばから8月半ばにかけてが、夏。そして雨季。
ただ、雨季といっても、変わりやすいのが山の天気。
雨は、1日の中でも、降ったり止んだり。
そんな雨季のブータンのお楽しみのひとつが、虹です。
 
虹そのものも、もちろんとても綺麗なのですが、
虹が出たとき、ブータンの人たちのおはなしを聞くのが、とっても面白い。
今回は、私が実際にブータンの人と体験した、
ふたつの虹のおはなしを紹介したいと思います。

 
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こちら、太陽の周りをぐるっと囲んだ円形の虹。
空気が澄んだブータンでは、夏を中心に、しばしば観測することができます。
これが、“日暈(ひがさ、にちうん)”という大気光学現象だということは、
ブータンの人もたちも、実はちゃんと知っています。
(この現象について気になる方は、インターネット等で調べてみてくださいね)
でもそれと同時に、この虹が現れるのは、特別な日だということも、
心から信じているんです。
 
私がこの日暈を初めて見たのは、3年前の2012年7月。
西部ブータンのハ県で行われていた、サマー・フェスティバルの最中でした。
このフェスティバルは、雨季にも観光客を誘致すべく、
ブータン政府主導で、当時2012年にスタートした新しい取り組み。
ただ、このとき偶然、ブータンでもっとも権威のある高僧、
ジェ・ケンポが、ハ県で大規模な祈祷を行うことになり、
多くのブータンの人々は、フェスティバルそっちのけで、
祈祷会場に集まっていました。
ちなみに、祈祷の日程は占星術で決まるので、
たとえ他の行事があっても、基本的にはずらすことができないのです。
 
そこで現れた、この日暈。
一緒にいたブータン人の同僚は、
「ジェ・ケンポが祈祷を行っているから、この円の虹が現れたんだよ。」
と、当たり前のように、驚く様子も無く、たんたんと語りました。
だから、「そっか、そうだよね。」と、私もありのままに受け止めました。
一般的にブータンでは、この円の虹が現れると、
世界中のどこかで、高僧、つまり偉いお坊さんが亡くなり、昇天し、
そのエネルギーが円の虹となって現れるのだ、と言われています。
そしてほどなく、その高僧の生まれ変わりが誕生するとされているのです。
 
ジェ・ケンポが祈祷を行う縁起の良い日に、特別なエネルギーが集結し、
世界のどこかで高僧が昇天し、そして空に円形の虹が現れる。
これは、ブータンの人々にとっては、超常現象でも何でもなく、
自然界の中で力のバランスが作用して起こる、ごく普通の出来事なのです。


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先日、7月5日。
友達とハイキングをしていたら、ティンプーの谷を包み込むような、
綺麗な虹が見えました。
一緒にいたブータン人の友人は、さらりと言いました。
「明日は、ダライ・ラマ法王の80歳のお誕生日だからね。」
 
その日はずっと天気雨が続いていたので、
虹が見えても何の不思議はなかったのだけれど、
でも、やっぱりただの偶然とは思えませんでした。
 
ジェ・ケンポのときも、ダライ・ラマ法王のときも、
人々の真摯な祈りと思いが、エネルギーになって、
この綺麗な虹色の光の芸術が、ブータンの澄んだ青い空に描かれたんだ、
そう思えてなりませんでした。
 
友達は続けて言いました。
「こうやって、虹の両端が見えたときは、願い事がかなうんだよ。」
「すべての生きとし生けるものの幸福のために、お祈りしよう。」
 
なんて清々しい気分なのでしょう!
虹が出て、ただ綺麗だなー、と思うだけではなく、
そこには偉いお坊さんの大きな力が働いていて、
だからこそ、真実味をもって、願い事がかなうと信じている。
ささやかだけれども壮大な、ポジティブなエネルギーが溢れている。
何てことのない日常の風景も、見方ひとつで、心のもちよう次第で、
こんなにポジティブに捉えられる。
これこそが、私がブータンの日常から、毎日ちょっとずつ学んでいること。
 
ふたつの虹のおはなし。
皆さんも、次に虹が見えたときには、
世界のどこかで、ポジティブなエネルギーが生まれたんだな・・・
と、ちょっとだけ、思いをはせてみてはいかがでしょう。


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Writer Profile

松尾 茜
松尾 茜Akane Matsuo

日本の大手旅行会社に5年間勤務した後、2012年よりブータン王国の首都ティンプー在住。ブータンの持続可能な観光開発事業に携わっている。地域固有の自然や文化、昔ながらの人々の生活を守りながら、ゆるやかに交流人口を増やし、地域経済を、訪れた人の心身を、着実に豊かにしていくような観光を、世界各地で促進していくことがライフワーク。

Ap Bokto
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ブータン王国の田舎町出身。二児の熱血お父さん。農家で、家族と家畜と共に、昔ながらの伝統的な生活を営んでいる。敬虔な仏教徒でもある。

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