Vol 5. ありのまま、ブータン
アプ・ボクトと樽の物語③:
さらなる試練
2015.08.28
雨季も終盤に差し掛かってきたブータン。この季節のお楽しみは、何といっても天然キノコ(ゾンカ語で“シャモ”)。
キノコ狩り名人たちが山に入り収穫してきた、様々な採れたての新鮮なキノコが、市場にずらりと並びます。
こちらは日本人にも人気のキノコ4種類。
下から時計回りに、松茸(サンゲイ・シャモ)、あんず茸(シシ・シャモ)、きくらげ(ジリ・ナムチョ、これはゾンカ語で“猫の耳”という意味です)、椎茸(ブータンの人たちも、“シイタケ”と呼びます)。
ブータンの人たちに一番人気なのは、黄色いあんず茸。
ブータンで最もポピュラーなおかず、チーズと唐辛子の煮込みによく合うんです。
殺傷を嫌う敬虔な仏教徒が多いブータンには、菜食主義者―ベジタリアンも多く、彼らにとっても、キノコ類は貴重なタンパク源。
山からの貴重な恵みを、皆でありがたくいただいています。
さて、気を取り直して、Athang社によるアプ・ボクト(Ap Bokto)のお話、第3話に進めて参りましょう。
アプ・ボクトと樽の物語③:さらなる試練
さて、命からがら猿から逃れたアプ・ボクト。
陽気に歩きなら旅路を進め、何気なく、杖につかっていた木の棒を放り投げました。
すると、なんと運の悪いことに、その棒が、熊のお尻に命中してしまったのです!
「おう、アプ・ボクト!よくも俺様のお尻に棒を投げつけてくれたな。ちょうどいい機会だ。お前を食べてやる!」と、熊。
アプ・ボクトは、必死で命乞いをします。
「おらは、これからお寺にお参りに行かなければならないんだ。お寺に行ったら、美味しいご飯をたらふく食べるから、その帰り道に、おらを食べるといいんじゃないかな。」
「お前は、またそうやってウソをついているんだろう。俺様は信じないぞ。」と熊。
「嘘じゃないよ、どうか信じてくれ。」と、真剣な表情のアプ・ボクト。
「しょうがないな、それじゃあ行くといいさ。ま、結局お前は俺様のエサになる運命なんだから、食べられるのを楽しみに待っているといい。」と、熊は自信満々にアプ・ボクトを逃がしてやりました。
またしても、野生動物をうまく騙すことに成功したアプ・ボクトは、嬉しくて笑みがとまりません。少し進んでから、持ってきたアラ(とうもろこしからできた、ブータンの蒸留酒)を取り出し、大きな石の上に座って、お気に入りの自前のとっくりで、美味しくいただきました。
ブータンでは一昔前まで、アプ・ボクトのように、自前のとっくりを懐に入れて、旅の途中に立ち寄った先で、お酒やお茶をいただく習慣がありました。
こちらが実際のアラととっくり(漆塗りです!)。“エゼ”という唐辛子ペーストをおつまみにいただくのが粋なんです。
・・・・・・またしても、あっさり道をゆるしてしまった熊さんには、何だか優しさすら感じますね。この流れだと、どうやら他にもアプ・ボクトの行く手をふさぐ者たちが出てきそうですが、果たして彼の冒険はいかに。
つづきは、vol.6をお楽しみに!