Vol 6. ありのまま、ブータン
これさえあれば
2015.09.12
雨季も終わりに近づき、次第に清々しい秋空がみられるようになってきたブータン。今回はアプ・ボクトのお話を少し休憩して、
ブータンの人々にとって欠かせない、あるもののお話をしたいと思います。
突然ですが、皆さん、こちらの可愛らしい白いお花、何だかわかりますか?
先日、我が家の庭先でちょこんと咲いているのを見つけました。
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最近のティンプーでは、ガーデニングがちょっとしたブームになっています。
今でもブータンでは多くの人々が農業で生計を立てているため、皆さん小さいころから慣れ親しんでいる土いじりはお手の物。
私が借りているアパートの大家さんも、庭先で色々な野菜を栽培し、収穫は皆で共有します。
そんな家庭菜園の中で、多くのスペースを占めているこちらの“野菜”、答えは・・・・・・
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そう、ブータンの食事には欠かすことができない、トウガラシです。
瑞々しくてとっても美味しそう!ですが、もちろんとっても辛いです。
宮本亜門さんのブータン紀行でも紹介されている通り、ブータンの人々は、ほぼ毎日、トウガラシを野菜として、チーズと一緒に煮込んで、ご飯のおかずとして食べています。
トウガラシの原産は中南米。
ブータンで一般的になったのは、ごく最近の300年ほど前と言われています。
商人が持ち込んだトウガラシ、食欲増進効果があり、チーズとも好相性で、ブータン中に瞬く間に広まりました。
今では、トウガラシをおかずにたくさんのご飯を食べられるよう、2歳頃から子どもにも食べさせるのが一般的。
老若男女、王様からお坊さんまで、ブータンの人々の生活は、トウガラシと共にあるといっても過言ではないでしょう。
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乾燥する冬季には、このように軒先や屋根の上で太陽にめいっぱいかざし、干しトウガラシを作ります。
干すと旨みが凝縮し、あぶったり、バターソテーにするだけで、まさに“うま辛”。
この刺激はなかなかの中毒作用もあるようで、ブータンの人々が物心つく頃には、皆トウガラシが無いと食べた気がしない!と言うくらい、トウガラシが大好きになっています。
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郷にいては郷に従え、その土地に入ては郷土料理が一番おいしく、私もブータンに来たばかりの頃は、ほぼ毎日トウガラシを食べていました。
そして久々に日本へ一時帰国し、空港でざるそばを食べたところ・・・・・・なんと、あの蕎麦の香ばしい風味が感じられないではないですか!
そう、トウガラシを食べ過ぎて、舌の感覚が麻痺し、七味唐辛子をたくさんかけないと、それこそ食べた気がしなかったのです。
これで、ブータンの人々がトウガラシばかり嬉しそうに食べているのに納得がいきました。
辛い、旨い、ご飯を食べてお腹いっぱい、そして満足。
「トウガラシとチーズとご飯さえあれば、幸せだ」
と、口をそろえて嬉しそうに言うブータン人の気持ちがよく分かったのです。
その後の日本滞在中、ブータンのトウガラシが恋しくなってしまったのは、言うまでもありません。
そうは言いつつ、私は日本人で、日本食もちゃんと楽しみたいので、今はブータンで食べるトウガラシの量を控えるようにしています(笑)
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トウガラシと一言にいっても、色や形、食べ方も様々
これはあくまで私の持論ですが、ブータンはあまりにも平和でのどかなため、皆さんトウガラシから刺激を得て楽しんでいる・・・・・・そんな気がしてなりません。
三時のおやつにも、トウガラシの天ぷら、“チリチョップ”をつまんだり、生トウガラシに塩をつけて、生たまねぎと一緒に食べて、「うわ?!辛い!」と涙目で楽しんだりしているんですよ(笑)
世界各国の料理、ストリートフードから高級料理、ジャンクフードからオーガニックフードまで、ありとあらゆる食の選択肢に溢れ、レストランを選ぶだけでも大きなビジネスになっている東京。
“トウガラシさえあえば”、毎日ハッピーなブータン。
あまりにも両極端で、比べることにはほとんど意味がないとは思います。
ただ、「本当はこれが食べたいけれど、今日は我慢しなければならない」という時、
トウガラシだけで毎日ハッピーな人たちも、このヒマラヤの山麓に居るんだ、と、思い出してみると、ちょっぴり気が楽になるかもしれませんね♪
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