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恋に効く、仏教 Vol.33

恋に効く、仏教 Vol.33 第三十三話
翔子ちゃんから学びたい事 2

2017.07.20

今回は前回に引き続き、
仲良くさせてもらっている
ダウン症の天才書家「金澤翔子」さんの事を書きます。

前回をお読みになってから読んでもらえると幸いです。
 
 
翔子ちゃんと初めて会ったのは彼女が20代の頃。
翔子ちゃんは
「30歳になったら一人暮らしする!」
と言って、
Google mapの航空写真で、
大好きなディズニーランド近くの家を探していて、「ここに決めたーー!」と言って、一人暮らしの始まりを、ウキウキして待っている毎日でした。
選んだ家も、すでに誰かが住んでいる家なのですが、そんな事、翔子ちゃんにはお構いなしで、
「ここに住むー」
と笑顔で言っていて、
「かわいいなぁ。」と思う反面、
 
「やはりダウン症の子が一人暮らしは難しいのではないかな?」と
どこかで思っていた自分もいました。
 
ただ、
現在32歳。
 
翔子ちゃんは、一人暮らし中。
 
今、1年9カ月一人暮らしを続けています。
 
ダウン症で一人暮らししているのは世界初ではないか? と言われているそうです。
 
この前、うちの娘二人が、
その一人暮らしの家に行って、遊びまくり
夏にはお泊り会をやると言っていますが、
 
話を聞くと、翔子ちゃんは掃除も自分でして
ご飯も自分で作り、しっかりと暮らしているようです。
 
決してダウン症の中でも軽いほうではなく、
今も言語障害も残る翔子ちゃんですが、
家族の支えと、
翔子ちゃんの逞しさに
頭が下がる思いです。
 
 
そんな翔子ちゃんの一人暮らしですが
順風満帆ではありませんでした。
 
もちろん日々様々な事があるわけですが、
 
先日金澤家に遊びに行った時に
お母さんから、
一人暮らしをして翔子ちゃんがぶつかった大きな壁があると聞きました。
 
それは、
お金の壁です。
 
 
翔子ちゃんは、
大田区の小さな商店街に住んでいて、
幼い時から翔子ちゃんの事は、商店街の皆がよく知っているし、
最近は特に有名になり、商店街で一番の有名人です。
 
そんな中で、翔子ちゃんは
ずっと人の優しさに包まれて
物々交換とおすそ分けの世界で生きてきました。
 
お総菜屋さんの前を通ると
「翔子ちゃんこれ持っていく?」
とコロッケをもらい
別のお店で、
コロッケを、おすそ分けすると
「これ持っていきな」
と別の物をもらい。
翔子ちゃんの本をあげるとお礼に何かをもらったり、
何もない時でも、これ欲しいというと
「いいよ。持っていきな。」
と、
本当に優しさに包まれた
ご縁の中で生きていました。
 
それがこの世のすべてでした。
 
 
それが、一人暮らしを始めて、
 
コップか何かが必要になって、
雑貨屋さんに行くと、
気に入った物は400円。
 
翔子ちゃんは持ち合わせのお金がなく、
そこで
いつも翔子ちゃんにいろいろくれるお店のおばちゃんの所へ行って
「400円ちょうだい」
と言ったそうですが、
断られたそうです。
 
いつも何でもくれるおばちゃんは、
お金はくれなかった。
 
別のお店で、お願いしても、
お金だけはくれない。
 
この事に、翔子ちゃんはすごい衝撃を受けたそうです。
 
なんでお金だけはダメなのか?
 
100円分のお饅頭をくれるおばちゃんも、
100円はくれない。
 
なんでなのか?
 
翔子ちゃんは全く理解ができません。
 
 
私たちは、いつの間にか貨幣経済の中で暮らし、このことに不思議さを持つこともなくなっていますが、
確かになぜお金だけはダメなのか?
 
 
もともとは物々交換で成り立っていたこの世界。
それをもっと便利に、そして物や食べ物だけでは日持ちしないけど、日持ちする交換の品として、開発されたのがお金だと思いますが、
 
ただの生活の便利グッズであったお金は、
今では、なにやら生活の頂点にいるようです。
 
お金は、非常に魅力的で、私たちの欲を駆り立てます。
お金によって駆り立てられた欲が、暴走することで喧嘩や争いに発展することもあります。
 
でも、
お金だって、お饅頭だって、コロッケだって、同じように物々交換でもいいだろうし、
 
おすそ分けしたって良いはずではないでしょうか?
 
お饅頭が10個あれば、
周りの人に、「食べますかー」と分け与えられるのに、
お金は、同じように分け与えられません。
 
 
経済が、お金によって成り立っているという経済的な話をそこに入れたとしても、
 
それでも
私たちは、翔子ちゃんが感じたこの疑問に対して、
反省の思いを持つほうがいいのではないでしょうか?
 
 
もちろん現社会において、お金がなければ暮らせないし、お金は大切なものですが、
 
それでも、
 
なんでお金だけ特別なのか?
 
という疑問を心のどこかに持つことが、
お金という魅力的で欲が表れやすいものに、
支配されない心をつくることになるのではないでしょうか?
 
お金も大事だけれども
優しさやご縁で成り立つ世界も大切なのです。

 
 
今、
見返りやお金がないと動く道理がないと考える人も増えています。
 
私たち若手僧侶でやっている、お寺でのボランティア活動である吉縁会(婚活)にも、多くのマスコミから取材依頼がありますが、
お寺の檀家を増やすため
お寺の信者を増やすため
社会にお寺を認めてもらうため
お寺がつぶれないため
その様な見返りの為に
そういう活動をしているのでしょ!?
と、多くの方が聞いてきます。
 
お坊さんたちが、
「お坊さんはただ困っている人がいるからやっているだけだ。」
と答えても、
「見返りもないのに活動するのには、どんな裏があるのですか?」
と一向に意図を理解できない記者も多くいます。
 
お金や見返りがない中で、
動くことが出来ない人になってしまうと、
他の人も皆、そういう心で生きているとしか見えなくなってくるのです。
 
 
お金という
今の社会の中で
いつの間にか中心にいるものに対し
 
疑問の心を持つ
 
それだけで何かが変わるのではないでしょうか?
 
翔子ちゃんの
疑問は今も解消されていません。
ただ、
一人で生きていく為の知恵として、
 
お金だけは、
優しさと
交換できない。

 
という学びをして、
この厳しい社会の中で、一人で生きようとしています。
 
 
ご縁や、優しさの中で
物々交換や、おすそ分けが
この世のすべてだと思っていた翔子ちゃんの学びが浅かったのか、
 
私たちがお金をいつの間にか特別視していたのか?
 
 
 
今の暮らしをしつつ、
お金も大事だけど、
お金に支配されない為にも、
 
翔子ちゃんの疑問
 
を、皆で共有することは大切なことだと思います。
 
皆さんが、
その疑問を共有し
心のどこかに留めておいてくれれば幸いです。

 

Writer Profile

木宮 行志
木宮 行志Koushi Kimiya

お寺婚活「吉縁会」事務局長 / 龍雲寺住職

浜松市の龍雲寺に入寺後、小学生100名のサマースクールや、世界の子どもにワクチンを送る万灯会など、社会貢献活動を行う。

2010年より、静岡県西部で費用をかけず、安心した出会いの場を提供しようとお寺での婚活「吉縁会」を地元の若手僧侶とはじめる。2015年からは東京、2016年からは名古屋・岐阜・大分・仙台でも開催。現在、会員は10,500名。成婚は260名以上と大きな成果を上げる。僧侶という立場で、独身世代と向き合い、多くの縁結びをお手伝いする。2018年春、 龍雲寺 第22世住職となる。

永代供養・樹木葬・坐禅会紹介『龍雲寺』
寺コン・お寺婚活『吉縁会』

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