「生きるってどういうことだろう?」「幸せってなんだろう?」
そのヒントがあるのではと、宮本亜門さんとブータンをおとずれました。
10泊 11日のブータンの旅。
その旅はあまりにも新鮮で、あまりにも清々しくて・・・・・・。
今回の旅で、素晴らしい贈り物を、たくさんもらいました。
それらをぜんぶ素直に届けます。
それが、WEBマガジン・ハタラクだからこそ、できることだと思ったので。
全20回のブータンストーリー。
毎週日曜日に更新中。
あなたもブータンをとおして、幸せを、生きることを、感じてください。
カディン チェ ラ(どうもありがとう)!!
12月17日 後編
生かされている感覚。
パロの空港で用意されたロケバス(ワゴン車)に乗り込んだわたしたちは、首都のティンプーに向かいます。道はきれいに舗装され、快適。
すると、亜門さんが話します。
「ついに来たね、ブータンに。
東京で暮らしているとGNP(国民総生産)が、幸せになる方法だとは、どうしても思えない。日本は経済的にはこんなに先進国なのに、自殺者や引きこもり、精神的に苦しんでいる人が多いし、『幸せってなんだ?』『幸せの尺度は?』と、考えさられることばかり。
それだけに、ブータンが掲げているGNH(国民総幸福量)に期待もしたいし、未来を感じたい。だけど、本当に『幸せの国を人間はつくれるのか? それってつくられたイメージだけではではないのか?』そんな疑問が湧いてしまう。
それにもしかしたら『このブータンも、外国資本が入って変わってしまうのか?』と、心配になる。でも、頭で考えていてもしょうがない。
まずは体験、体感して、この国を知らなければ。
そしてもしかしたら、他の国にできなかった、これからの社会への何かヒントとなるかもしれないのだから。
人間が生きる上で、一番本質的なことを、感じに」
そうなんです、ブータンには、今、そしてこれからのわたしたちの生きかたのヒントがあるような気がしていました。と、同時に「本当にブータンって、幸せの国なの?」という、うがった見かたも抱いていました。だからこそ、ブータンで生きることの本質を見つめたいと。
亜門さんの気持ちと、ハタラクの思いが合致し、ロケバスのなかは一気にテンションがアップ! そして1時間もたつとティンプー市内に到着。最初の目的地『デチェンプ僧院』に向かいます。
チベット仏教を国の宗教に掲げ、国民の70%以上が仏教徒というブータン。その宗教観も多分に、「幸せ」に影響しているのではと思ったので、まずは僧侶を育てる国立の学校『デチェンプ僧院』を訪ねることにしました。
(左上)ティンプー市街からちょっと外れた場所にあるデチェンプ僧院。国立の僧侶学校で約230名の学生が僧侶になるための勉強をしています。(右上・左下)お経を唱えている生徒さんたちを見学する亜門さん。読経の声は美しい合唱のようにも聞こえて。(右下)「無限のものなどない」「いつか終わりは来る」という仏教観のもと、家族や友人が亡くなるとお供えするバターランプ。東日本大震災のときにも、ブータンの人たちはこのバターランプを供えてくれました。
くるくるとした、いたずらっ子のような瞳を持つ先生が、学校内を丁寧に案内してくれます。普段ここでは大勢の生徒が学び、生活をしているそう。
生憎、わたしたちが訪れた時期が、冬休みにちょうど入ったタイミングだったため、多くの生徒が実家に帰省中でしたが。
先生の話からも、同行してくれているガイドさんからも、ブータンでの仏教観をうかがうことができました。
まず、ブータンでは輪廻転生を、ほとんどの国民が信じ、生まれたときから、家族などからその教えを説かれていること。そして輪廻転生のなかでも、人間として生まれてくることがもっとも尊いことであり、なぜなら人間だけが、経験を積んで修業ができるからと。
また、ブータン人の仏教観は、厳しい決まりや戒律を守るというものではなく、「True human being(良い人間になる)」ことが大切であると。良い人間とは、思いやりを持ち、足るを知り、どんなこともポジティブに受け入れていくことをさす。
そして「死」は怖いものではなく、当たりまえのもの。たくさん良い行いをし、お祈りをすれば、次も素晴らしい来世が待っていると。
これらの感覚に、亜門さんも、わたしたちも、ある意味のショックというか、ブータンでの最初の洗礼を受けた気分でした。
(左上)授業が終わった生徒たち。読経をしているときとは一変。笑顔がこぼれ10代の表情に。(右上)亜門さんを案内してくれた先生と。ちなみに先生は、防寒でブータンで大人気のユニクロのフリースを着用(笑)。眼下に広がるのはティンプー市内。
学校での時間を過ごした後、亜門さんが話します。
「やはり仏教が、信仰が、もの凄く根付いている。
考えかたや、生きている意味合い、生活すること自体の視点、それに、幸せの価値観が、僕たちとはまったく違う。
それは、このブータンの位置している場所も、おおいに関係しているんだろう。
これだけの標高になってくると、空の色から、土の色から、光の強さが全然違う。その美しさは、言葉をなくすほど、神々しい。すべてのものが輝いて見えるし、人間がこの世の中心だ何て言うような傲慢さは、考えにくい。
標高の違いは、実は、そこに住む人たちの精神性や、信仰にも大きく影響していると思うんだ。
それに、この壮大な山々と壮絶な自然に溢れたブータンにいると、そのなかの人間が、どれほどちっぽけなのかが分かる。ブータンの人たちは、そういう場所で生きている。そのバランス感覚は、東京では到底味わうことはできないね。
このブータンの土地だからこそ感じられる崇高さのなかに、自分は生かされているという感覚は、来てみて分かった。やっぱり来てみないと、この違いは感じれないね」
ブータン初日から、亜門さんの心は震えはじめ、何かを感じはじめている様子。
亜門さん、もう幸せってなにかが、見えてきましたか?
「何が幸せか? まだまだわからない(笑)。
でも、もし僕がここで『ああ、分かったよ』なんて、言ったら、それこそネット検索のし過ぎで、答えをすぐ求めるように毒されている自分がわかって、やばいよね(笑)」
カディン チェ ラ!
国民に愛される国王の存在
ブータン国民にとって、国王の存在は精神の柱といえるほどの意味合いを持ちます。その証拠に、今回訪ねた一般家庭のどのお宅にも、歴代国王の写真が飾られていました。
ここで少し、ブータン歴代国王の話を。
ブータンの国王は、1907年に在位した初代国王ウゲン・ワンチュク国王から、現在の五代国王ジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王に至るまでワンチュク家によって継承されています。
では、歴代国王の功績を、かなりシンプルですが、ご紹介しましょう。
〇初代ウゲン・ワンチュク国王(在位1907―1926年)
〇第二代ジグメ・ワンチュク国王(在位1926―1952年)
多くのアジアの国が欧米に植民地化されていた時代、ブータンが安定した情勢を保てたのも、このふたりの国王の政治的手腕の賜物。
〇第三代ジグメ・ドルジ・ワンチュク国王(在位1928?1972年)
次々と国際化、近代化政策を行った改革の父。
〇第四代ジグメ・シンゲ・ワンチュク国王(在位1972?2006年)
父である第三代国王の急逝により、わずか17歳で即位。GNHを提唱し、成分憲法の制定、普通選挙、インフラの整備など画期的な政策を次々に行う。そして50代という若さで譲位宣言。現在も国民から圧倒的な信頼を得、国民によっては神さまのようにあがめられている。
〇第五代ジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(在位2006― )
2011年の来日以来、日本での認知度も高い現国王。その若さと親しみやすさも手伝って、国民からの人気も高い。2008年に民主化したブータンの未来への重責を担う。
歴代の国王の礎があってこそのブータン。時代はどれだけ変わっても、国民の国王への確固たる信頼、国を愛する心は不変であることを、今回の旅でも実感中です。
ブータンの玄関口、パロ空港の滑走路近くには第五代国王夫妻の写真が飾られ、国民、観光客を温かく出迎えてくれます。