「生きるってどういうことだろう?」「幸せってなんだろう?」
そのヒントがあるのではと、宮本亜門さんとブータンをおとずれました。
10泊 11日のブータンの旅。
その旅はあまりにも新鮮で、あまりにも清々しくて・・・・・・。
今回の旅で、素晴らしい贈り物を、たくさんもらいました。
それらをぜんぶ素直に届けます。
それが、WEBマガジン・ハタラクだからこそ、できることだと思ったので。
全20回のブータンストーリー。
毎週日曜日に更新中。
あなたもブータンをとおして、幸せを、生きることを、感じてください。
カディン チェ ラ(どうもありがとう)!!
番外編
亜門さん、今のブータンについて話しませんか?
ブータンに流れる仏教的思想、ブータンを取り巻く自然、そして人々との交流をとおして、ブータンを感じ、幸せの尺度を見つめている亜門さん。
一方で、亜門さんはこの旅に向かう前も、旅をしながらも、ブータンに関する本や資料を読み、一部分だけではなく、あらゆる側面から、ブータンを知ろうとしています。
旅も後半戦に入ったこの日、今のブータンについて語り合う時間が生まれました。お相手は、今回の旅を実現してくれた立役者、ブータン政府観光局現地駐在スタッフの松尾茜さん(当時)です。
松尾さんは、ブータンに住みはじめて3年以上がたちます。政治も、文化も、思想も、産業も、さまざまな面から、ブータンを見つめている方です。
ここで素敵なサプライズ!
本日から松尾さんのハタラクでの連載がスタートします!! 題して『ありのまま、ブータン』。ブータンの今、本当のところ、実は・・・・・などお届けしますでの、あわせてお楽しみください。
さて、話を戻して。
夜も深まったブータン22時。ちょっとお酒も入りながら、本音の話が炸裂(笑)。
さぁ、亜門さんと松尾さんの“ブータントーク”をお楽しみください!
右が今回の対談のお相手の松尾茜さん。30才という若さながら、自分の生きかたを真剣に考えている熱い人。
亜門さん:ブータンは、いい意味で戦略的な気がする、GNHしかり“戦略的な幸福”という軸を持っている。
「幸せ」という言葉は、見かたによるととても扱いづらいもの。
ある政治家は自分の「幸せ」のために戦争を起こして当然と思うし、極論を言うと「幸せ」という命題で人は殺せる。
それに、日本は終戦後アメリカに洗脳された資本主義のお陰で、金を得て「幸せ」は得られると、エコノミーアニマルと言われるほど突っ走ってきた。今度は、それに疲れた人たちが、発展途上国の幸せを、昔を懐かしむように、まだほのぼのした「幸せ」が残っていていいなと。
でも、ここに来ると、それとは違う「幸せ」への強い意志を感じるんです。それはブータンの国王、政治家たちが、しっかり考え抜いた上の幸福。つまり、『仏教の真の幸せとは』という教えを大切にして、民主主義(ブータンは2008年に民主化)を、自分たちの方法で自立させるべく紡いだ国王の言葉が僕には沁みるんです。
だから一人一人の内面と向き合うブータンの幸福って、かっこいいし、最先端と思えるのかもしれない。
松尾さん:ダライラマも、宗教を越えて、キリスト教もイスラム教も、アジアも西洋も何もなく、21世紀はそういう倫理観、“人間の倫理観”というものが大事だと言っています。
ブータンも、東洋とか西洋とかそういう区別ではなく、GNHという独自の“新しい倫理観があるんだ”ということを、しようとしているんですね。
亜門さん:日本では、倫理や道徳が大切なのは分っているけど、つい「でも現実はね」と、正面から向かい合う事をしなくなった。むしろ変な照れがあるくらい。日本ではなかなか通用しにくいけど、このブータンでは「あ、やっぱりそうだよ」という気持ちになれる。
これは僕の意見だけど、アメリカの60年代ビートニック世代やヒッピーが、アジアから影響を受けた思想が生まれ、ヨーロッパでも、ビートルズがネパール行ったりして。
それが今、アメリカでスピリチュアルという形で広がったけど、その一番根源的な強さが、ここブータンに残っている気がする。それは古いどころか、やっと人々に必要され、本来の意味をなすようになってきたんだと。
松尾さん:ブータンは、アメリカがそういうことをやっていたということは知らなかったでしょうね。周りがどう騒ごうが、「自分たちはこれです」って揺るぎないものを、ブータンは持っています。きっとそれは、これからも揺るがないと。
亜門さん:“揺るがない”凄い言葉だね。
きっと、ブータンという国のこと、そこに住む人々のことを真剣に考えたゆえに、こうなっているのでしょうね。
松尾さん:亜門さんが話されるとおり、国王が政治家が、官僚が真剣に取り組んで、今のブータンがあると、わたしもこちらに住んで日々、強く感じています。でも亜門さんは、なんでそこまでブータンの芯の部分にも興味があるんですか?
亜門さん:実は、僕の中で危機を感じているんだ。もう、警笛を鳴らす時期が来たのではないかと。
僕が海外に行って、いろんな舞台の仕事をすればするほど、アジアの中に、これから人類が向かう先への 大切な方法論があるはずだと感じる。西洋人たちも、未来を今までと同じように突っ走っても、駄目じゃないかと思っている人、意外と多いんですよ。でも、どうしたらいいかわからない。僕もそれがどこにあるかはわからない。じゃ、今の日本になのか? って聞かれても、すぐにYESとは言えない.
今の日本は、むしろ混沌とした渦の中にいて、まだ見い出せないでいる。もちろん国内でも感じている人たちはいるだろうけど、今の政治、経済、外交、未来への不安は尋常じゃないものね。僕が言っているのは、目に見える事じゃない、精神性のことを言っているんだけど。
例えば、確固たる意志を掲げるダライラマも、凄い強い存在じゃないですか。ブータンの国王も同じ。人を感動させる言葉を世界に伝えることができる。その国のリーダーが、誰の魂にも触れられる言葉を出せるって凄いことだよね。
松尾さん:たしかにブータンの国王の言葉に国民は、勇気と自信を与えてもらっていますね。国民にとって国王の存在は、はかりしれないものがあります。
亜門さん:日本の省庁などで、僕から話を聞きたいと言われることがあります。そういう場に参加すると、多くの人が「中国がこうしたから」とか、「韓国がこうしたから」と、常に他の国に負けたくない、競争のなかで溺れて苦しんで見える。とても焦っていて可哀想なくらい。
多くの人たちが、そういう目の前で起こることに振りまわされて、大きな目で今の地球を見て、「生きるということを、本質的にどう考えるべきか」ということを真剣に見つめる時期に入ったことに、気がついていない。
周りがどうした、あの人がどうした、こうしたから自分たちは勝っているか、負けているか、そんなことばかりに神経をつかっている。今まで以上に、真の自分自身の本心と話すことがなくなって、世間の流れを必死に追いかけていると思えてしまう。
松尾さん:生きることの本質を考える。ブータンの人たちは、普通にそういう話をしているかもしれません。
亜門さん:だから日本でも、そういう風に気がついた人は、できることから何かするべきなんですよね。気がついた人は伝える。伝えづらい状況が日本にはあるけど、実は心でそんな話はしたことないけどしたい人、意外と増えてると思うんです。
それが広がって、もっと世界中の人と、いろいろな楽しい形で交流できればいい。
松尾さんみたいに、何かが違うと思ってブータンに来て腰をすえて学び、気づいたことを多くの人に伝えるべきだと思うんです。我々にできることは山ほどありますよね。誰もが自分ができることを、どんどん行動に移して、海外や国内で、感じ、学んだことを日本、親に恩返しできるといいなと。
松尾さん:ブータンは人口も少ない(約70万人)し、資源も少ないし、山岳地形で開発も簡単にできないからこそ、ゆっくりと築くことができたと思います。ラッキーでもあるんですけどね。いろんな条件が重なって、“GNH”を提唱した、先見の明がある先代の国王がいらっしゃって、だから今、こういう新しい最先端の哲学がブータンでつくり出すことができたと思います。
亜門さん:宗教も含めて、多くの条件が揃っているんですね。
松尾さん:国王とグル・リンポチェの力だと、心から思っていますから。
亜門さん:その力が、温かく心に波紋していくといいですよね。日本でも、ブータンに行った人たちの会があったりとか、自然な形で広がっていくといいな。
僕なんか東京に帰ったら、つい色々な人とブータンのことで語り合いたくなるだろうな(笑)。
黙って部屋のなかに閉じこもって、「よかったね」って、ひとりアルバム見て終わるのがどうも似合わないタイプなんで(笑)。
松尾さん:勘ちがいされている人も多いんですが、ブータンは自分たちから「私たちは幸せです。幸せの国です」なんて、発信したことは一度もないんです。GNHはあくまでも指標。「個人個人にとっての幸せとは何かを見つめながら、国を発展させていきます」という目標を掲げ、発信したのですが、結局、“幸せの国”みたいな感じで報道されて・・・・・・。
しかも2012年は「幸せ幸せ」って報道されて、2013年には「幸せの国だけど、実は若者の麻薬問題、失業問題、ごみが多い」と、勝手に持ち上げて勝手に落とされて(笑)。
でも、日本や世界でどう報道されようが、ブータンの人たちは、たんたんと日々を生きていこうとしているだけなんです(笑)。
亜門さん:幸せを見つめながら日々生きるね。素敵な言葉だな。自分が他の人と幸せかどうか計るんじゃなくて、見つめる。
知ってほしい大切な考え方だね。
松尾さん:日本を離れて暮らして、より強く思ったことがあります。日本の侍的な武士道とかスピリットは見習わなければいけないなと。
ブータンは、ちょっとのんびりしすぎていますし、他人に優しいのはいいのですが、自分自身にも甘すぎる傾向がありますからね(笑)。そういう意味では、日本人はもっと自信を持つべきだと思います!
亜門さん:力が湧いてきましたね(笑)。どんどんいい波紋が広がっていくよう、僕たちもできることをやっていきましょうね。
カディン チェ ラ!
町中、村中、犬がいっぱい!
ブータンを旅していると、町でも、村でも、至る所に犬がいることに驚きます。もちろんすべて飼い犬ではなく、野良犬もたくさんいます。
亜門さん曰く「犬の様子を見ると、その国の人柄が見えてくる気がするんだよね。犬が人なつっこかったら、その国の人もフレンドリーかなとかね」と。
ではブータンは・・・・・・最初は慎重にこちらをうかがいながらも、あっという間に打ち解けて(笑)。
しかしブータンは、ただ犬を野放しにしているだけではありませんでした。野良犬に狂犬病の注射を国が行い、決して殺傷処分をしないようにしているそう。すべての生き物の命は平等の表れ。
わたしたちが学ぶハートが、ブータンにはやっぱり溢れています。