楽しみ、楽しませ、ほんのちょっと楽になる

Vol.140台湾から来た白い犬の日記

Vol.140台湾から来た白い犬の日記 ゲイとして生きること(前編)
自ら死ぬという選択肢

2016.11.21

私Cocoの飼い主のJapanさんは、もう長いことサンフランシスコに住んでいて、
日本での暮らしよりもこちらの方が長くなるという逆転現象も通過したほどの人です。

ですからよく人に尋ねられるのが
「どうして米国、それもサンフランシスコに来たのですか?  
米国に住もうと思ったのですか? 
どうしてこんなに長く住んでいるのですか
?
という感じの質問です。
 
彼のその答えは相手によって変化します。

Japanさんのことをあまり知らない、彼もあまり相手のことを知らない場合:
色々と米国を回ってサンフランシスコが程よい規模の都市で、
公共交通機関もあって車がなくても生活できるから、初心者には楽だなっと思ったから。
気がついたらこんなに居座っていましたー。

Japanさんのことを知っていて、相手のこともほどほど知っている場合:
アジア人にも寛大で、ゲイであることもそれほど問題なく受け入れてくれる場所であり、
そこで大切な相手と出会えたこともあり、今の生活に満足しているから
こうして暮らし続けることができるのでしょう。
日本では自分は居場所がなかったように感じていました。
生きていくために全てに嘘をつきながら生きていく選択しかなかったような気がしていたから、
ここがとっても心地よいのです。


そう、Japanさんが米国に来たきっかけは英語をしゃべれるようになりたかった
というのも大きな理由ですが、日本にあのままいたら
自分の将来が自分が望んでいた将来とかなり隔たった、
みじめなものになってしまうのではないか、
という漠然とした怖れがあったからなのだそうです。
 
誤解のないように言っておきますが、別に日本を出ればバラ色の人生が待っている
と思っていた訳でもなかったそうです。

しかしゲイである自分がこのまま日本にいたら、
日本で暮らした22歳までの人生のように家族に、友人に、バイト先に、
すべてに嘘をついていかなくてはいけない人生になるのではないかという
見えない不安を感じていたそうです。
 
日本で大学を卒業して、丸の内に本社のある某企業に就職も決まっていましたが、
これと言った特殊技能も能力もない自分。
何かがこのままではいけないとおぼろげに感じていたみたいです。


さて、すこし前にニュースに載っていた一橋大学大学院生の自殺の件をご存知でしょうか?
これは一橋大学大学院生の男性が、ゲイに理解のあまりないの同級生男性に恋愛感情を告白し、
告白された男性が仲間内に彼がゲイであることを彼の同意なく広めてしまい、
運悪くその仲間内ではゲイに対する見解が理解のない方へ偏っていらしく、
告白した彼はその交友関係の中で心がバランスを崩し自殺してしまった。

その後自殺した彼の家族が、告白された男性や大学を相手に取り訴訟を起こしたというものです。
その後のニュースでは大学生に同情するコメントよりも、
告白された御本人はさぞかし気持ち悪かっただろうからしょうがない
というコメントの方が多く驚かされました。

これら一連のニュースを聞いてJapanさんは
他人ごとのように思えず大変心が痛かったと言っていました。

一橋大学院生の彼はJapanさんが日本にいた時のように嘘をつき通すことなく、
自分の気持ちに正直になり、大きな勇気をもって自分が好きだと思う相手に告白をした。
男でも女でも自分の思いを寄せる人に恋心を告白するのって物凄く大変なことだし、
たくさんの人はその気持ちにさえ直視せずにうやむやにしてしまうことが多いのに、
彼はそれをせずしっかりと対峙して、その人に告白をしたのです。

それだけでも勇気を持った素晴らしい行動だと思えます。
確かに自分が好きでもない人から告白されてしまうと困ってしまいます。
それは男も女も同じことではないでしょうか。犬でも同じですし…(汗)。

そしてそれを逆手にとって「あんなブサイクから告白されてショックー」とか、
あの人自分の顔見たことあるのかしら? 告白なんてしてきて超キモイー」などと周りの人間に、
その告白相手をあざけるかのように広めることもよくあることなのかもしれません。


しかし彼の場合はその上に同性愛の告白という、日本ではあまりなじみのない告白でした。
そしてこの大学院生に対しての反応は、これがたぶん日本のゲイに対する現状なのだろうということです。
もちろん真剣な告白を嘲るように冗談にすることは最悪の対処方ですが、
その最悪のさらに下を行く、ゲイに対してのひどい扱い方が加わったため、
彼は心底いたたまれなかったのではないでしょうか。

日本ではゲイに関する理解の欠如が主要先進国の中では著しく突出しています。
ゲイと言っても一般の方たちが見るのはテレビでオネエ言葉をしゃべる、妙にクネクネした人、
もしくは女装した人をゲイと同一視している程度の理解。
本当の普通のゲイに接する機会が皆無。
一般的なゲイの人たちもほとんどアウトしていないと言いますが、
アウトできるような状況でないのが現状。

そうしたことから一般人におけるゲイというものは、冗談や特殊なものに限られているもので、
気持ちの悪い、訳の分からない人たちという知識程度なのでしょう。
Japanさんがインスタをやって気がついたのは 英語で「#Gay」となると
普通にゲイの人たちが自分の写真にこのタグをつけているため、
#ゲイということが一つのコミュニティー的な機能を果たしています。

しかしながら日本語で"#ゲイと入れると、ほとんどが冗談で男性同士が接近している写真を
面白おかしく載せている程度。
中にはあくまでもJapanさんの推測ではありますが、いじめ的な感覚で友人の写った写真に
このダグ#ゲイを入れているようなケースも多々見受けられまして、
本当のゲイの人たちの普通の姿は外国人以外皆無のような印象を受けたそうです。

この程度の理解度ですから、たとえゲイの男性が真剣にまじめな告白をしたとしても、
「俺ーXX君にコクられっちゃったぁ、身の危険を感じるー!!
くらいの反応しかできないのかもしれません。
智賢が低いので、本人の了承もなくアウティングをしてしまうのかもしれません。
そして日本のゲイの理解度の土壌を考えると、アウティングはかなり危険なことであるのかもしれません。

アウティング
ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)などに対して、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露する行動のこと。

カムアウト
自らの性的指向等を自分から表明すること


もし誰かがゲイであることをカムアウトしても、
その本人の同意もなく勝手にアウティングしてしまうことは、現在の日本社会においては
かなり危険であることをストレートの方たちに理解していただきたいものです。

Writer Profile

Coco
Cocoココ

台湾生まれ台湾育ちのフォモサ犬系雑種。野良犬だったため正確な年齢は不詳:性別、女推定9歳。台北で殺処分直前に現地の動物保護団体にレスキューされる。その後紆余曲折を経て、2010年、サンフランシスコ在住の日本人男子Japanさんとアメリカ人男子Dさんのカップルの家の養子となる。食べることと散歩が大好きだが鶏肉アレルギーがある。

Back Number

その他のバックナンバー

ページトップ