Vol.01本道佳子マネージャー日記
そこにフランスパンがあったから
2014.12.22
皆様、はじめまして。世界を旅する料理人・本道佳子のマネージャーを担当している天野麻里江と申します。
ここでは、そばで見ているからこそ感じる 本道さんの人となりや魅力を
お伝えしていきたいと思っています。
まずは、自己紹介や本道さんとの出会い、マネージャーになったいきさつを。
とも思いましたが、それらはいつか機会があればお話させていただくとして。
初回となる今回は、私が本道さんと一緒にはたらくようになって間もない頃に見た、
これぞ本道さんだというエピソードをひとつお話したいと思います。
それはちょうど昨年の夏、仕事でシンガポールに行ったときのこと。
宿泊したのは、こじんまりとした、ちょっとおしゃれなビジネスホテルでした。
その日は朝から仕事。軽くご飯をすませようと、ホテルに付いていた
ビュッフェスタイルの朝食を食べに行くことに。
スタイリッシュではありますが、あくまでビジネスホテル。
決して広いとは言えないスペースに並べられているお料理は、よくあるタイプの
簡易的なものでした。
あまり時間もないので、スーツを着た外国人男性に混じりながら、
さっそく列へと並びます。
私はあまり迷うこともなく (というかあまり選択肢がないから)、
トーストした食パンを1切れ取り、野菜とベーコンを申しわけ程度にお皿の隅に置いて、
すぐにテーブルへと戻りました。
そこから、本道さんを待つこと数分。
にっこり笑顔とともに、本道さんが大切そうに運んできたそのお皿を見た私に
衝撃が走りました。
そこにあったのは、フランスパンでつくられたあまりにも美しいオープンサンド。
15センチぐらいの長さに切られたフランスパンはさらに縦半分に切り開かれ、
片側にはチーズと水菜、もう片側にはベーコンがお行儀よく並べられています。
その周りにはナッツとドライフルーツが散りばめられ、お皿をきれいに飾っていました。
まるでレストランでオーダーしたかのような素敵なオープンサンドがそこにあったのです。
たしかにフランスパンを自由に切れるスタイルになっていたけれど、
輪切りにすることぐらいしか思い浮かばなかった・・・・・・。
驚く私に向かって、本道さんは
「フランスパンがあったから適当に切って、
置いてあった物を適当に乗せただけなんですよ?」と言いながら、
恥ずかしそうにフフフと笑います。
そして、パンを重ね合わせてサンドイッチにすると、ナイフで真ん中を切り、
私のお皿に1つ置いてくれました。
そのサンドイッチを噛みしめながら思ったのです。
本道さんには、「これがないからできない」という枠が一切ないのだと。
『今あるものの中で いかに最高のものを生み出すか』
このことにしか意識が向いていないのです。
気付かないうちに、「これがないからできない」と 「ないもの」に意識を向けて
自分で自分に制限をかけてしまうことって多いと思うんですよね。
環境が整っていないから、できない・・・・・・。
才能がないから、できない・・・・・・。
時間がないから、できない・・・・・・。
やったことがないから、できない・・・・・・。
でも、「あるもの」に目を向けるだけで、そこから無限の可能性が広がっていく。
これを体現しているのが本道さんだと思うのです。
「これがないからできない」と思ってしまったら、その道はそこで終わり。
なぜならそれは「できない」のではなく、「やらない」と決めた瞬間だから。
でも、「今あるもので何ができるか」に意識を向けた瞬間に、
自分の目の前にズンっと道ができて、いかようにもその道を歩いていける。
そうやって自分でつくった道を、とっても楽しそうに笑顔で歩いているのが
本道さんなのです。
だからこそ、私が簡素だと思ってしまったビュッフェ台から、あんなに素敵な
オープンサンドを生み出せるのでしょう。
普通なら見逃してしまいそうな日常の些細な出来事の一つひとつを
楽しく積み上げているからこそ、
あの体の芯から湧き出るような、キラキラとしたパワーがあるんだなぁ。
そーんなことを考えていた私に本道さんが一言。
「パンを切っているとき後ろに並んでいたサラリーマン風の外国人男性が
『それ、いいね』と言ってきたので、ついでに切ってあげました〜」
そこにあったフランスパンで、どれだけ楽しいことを生み出すのでしょう。
楽しそうに生きている人は、それだけで周りにも幸せをお裾分けするんですね。
朝のちょっとした一コマ。
でも、私の心に深く深く刻まれた瞬間のお話でした。
※写真は、当時の記憶をたどって再現したオープンサンドです。