Vol.02本道佳子マネージャー日記 みんな手が教えてくれる
2015.01.02
私が湯島食堂のお客だった頃。本道さんが3冊のお料理本を出しました。
3冊とも少しずつ趣向は違うのですが、共通しているのは、
料理の斬新さと写真の美しさ。
そして、そこに綴られた優しい言葉。
その中で、とても印象に残っている言葉があります。
それは、2冊目の『ちからがわく 野菜の100皿』(メディアファクトリー刊)という、
とてもキレイな青色の表紙をした本のアボカドのページ。
『アボカドは手でちぎると、よりまろやかな味に。
みんな手が教えてくれます。』
その時の私は、アボカドを手でちぎることも驚きでしたし、
手のかけかたによって野菜の味に違いが出ることも、
『すべては自分の手が教えてくれる』という考えかた自体も衝撃だったわけです。
それ以来、家で料理をするときは「自分の手」というものを
少し意識するようになりました。
その後、本道さんのマネージャーという立場になり、
時々料理のお手伝いをさせてもらうようになったある日のこと。
本道さんから大量のハーブを渡されて「急いでハーブの葉を茎からちぎってください」と
言われた私は出来る限りのスピードで葉をちぎりました。
その間にも本道さんは、魔法をかけているかのようなすごい速さで
料理を完成させていたのですが、
ふと私の手もとを見て近寄ってきました。
「急いでは欲しいんですけど、ブチっとやるんじゃなくて、
野菜が痛くないようにスゥーっとね。」
耳もとでそう言うと、またすぐに戻って魔法のように料理をつくります。
なるほど、ブチっじゃなくてスゥーっと・・・・・・。
言われたとおりにやってみると、たしかに野菜へのストレスが
少なくなっているような気がしました。
そこで思い出したのが、あの言葉です。
『みんな手が教えてくれる』
ただ包丁でざっくり切っていたら、このスゥーっとした感じはわからない。
自分の手でやるからこそ、野菜が痛いとか心地よいとかがわかるんだ。
これを本道さんに伝えたところ、こんな言葉が返ってきました。
「そうそう、野菜にも繊維がありますからね。
手を使うと、その繊維に沿って野菜が自分の切られたいように切れるんですよ〜。」
この時、私の中でストーンと腑に落ちたのです。
なるほど!野菜の意志を尊重しているのだ! と。
手が教えてくれるのは、野菜の気持ちだったのです。
同時に、本道さんから聞いたこんな話も思い出しました。
「野菜は自分の特徴をわかっていて、『今日は生で食べてくれたほうが美味しいよ〜。
焼いたほうがいいよ〜。じっくり煮たほうが味が出るよ〜。』って
伝えてくれていると思うんですよね。」
そう、本道さんは、その手で常に野菜の一瞬一瞬の気持ちや
意志を感じながら料理をしているのです。
だからこそ、本道さんの料理にはメニューがないし、同じメニューもできない。
つくっている最中にもどんどん変化していくのだなぁ、
と心の底から理解した瞬間でもありました。
人だって、同じ人は2人といませんものね。
あの人にピッタリな洋服が、他の誰かにもピッタリと合うわけではありません。
それぞれの好みもあるし、顔や身体の特徴も違うので、
その人を一番輝かすメイクやファッションは人によって違うのです。
人と同じように野菜に向き合い、その気持ちを大切にしているからこそ、
野菜たちも喜び、その結果、作られる料理もあんなにも美しく、
堂々としているのだなぁ。
そう納得するとともに、「私の手だってなんでも教えてくれるんだ」と
少し誇らしい気持ちになりました。
お正月は少しゆっくりする時間もあるので
「自分の手」で様々なことを感じながら、小さな幸せや喜びを生み出せたらと思います。
皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。