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Vol.07本道佳子マネージャー日記

Vol.07本道佳子マネージャー日記 風を読む

2015.02.05

前回のvol.06では、本道さんはアイディアの宝庫であること、そして、そんな本道さんのメモ帳について書きました。
 
ただ、そんな本道さんでも、アイディアがあと一歩のところで完成しないことがあります。
「いい考えが浮かびかけているんだけど、何かが足りない気がするんです。」そう言って立ち止まることが時々あるのです。
 
そんなときに本道さんが決まって言うセリフがこちら。
「ちょっと風を読んできます
 
初めてこう言われたときは、『どこか景色のいい場所に行って、気持ちのいい風に当たって考えてくるのかなぁ。』そう思っていました。
 
でも、そうとも限らないことにあるとき気が付きました。
 
それは、おうちの中だったり、都内のカフェだったり。
地方の静かな宿のこともあれば、海外の穏やかな海なことも。
 
そう、実際に風に当たる・当たらない、の話ではないのです。
 
 
ふっと何かのイメージを沸かせたとき、ある瞬間に頭の上をさっと風が通り抜ける。
そんな感覚になるときがあるみたいです。
 
その風にはたくさんのストーリーが流れていて、そこでキャッチしたストーリーが、すなわちアイディアになる。
 
その一連の流れを「風を読む」と表現しているようなのです。
 
あるとき本道さんは、自分の料理のことをこう語っていました。
「ある瞬間に、さっと頭の上を通り抜けた風の一部を切り取って、それをくるんと料理にしているイメージ」
 
この話を聞いたときもやっぱり納得したんですよね。
『あー、だから本道さんの料理には決まったメニューがないんだ』って。
 
そこにいる人、目の前の景色、漂う空気、流れる風。
 
そのすべてを感じ取り、料理として表現するからこそ、ひとつとして同じメニューになることがないのでしょう。
 
そして、この話を聞いてもうひとつ思ったこと。
 
なぜ、本道さんはこうして風を読むことができるのか。
それは、「今、この瞬間を生きているから」だと思うのです。
 
もちろん本道さんも、過去を思い出したり、未来に想いを馳せたりすることはあります。
でも、どこに焦点を合わしているかというと、まぎれもなく「今、この瞬間」。
 
「今」という一瞬一瞬に、自分の心が最もワクワクすることを選択している。そうした「今」を紡いでいるからこそ、今のような本道さんが在り、瞬間的に吹く風をキャッチして料理という形で表現できる。
私はそう思っています。
 
「やっぱり本道さんだからできることだよね。」
そんな意見も聞こえてきそうですが、私は最近、「今」を感じるアンテナみたいなものは誰もが持っているものだと強く感じます。
 
それが、風だったり、音だったり、香りだったり、色だったり、人によって感じる形は様々なのでしょうけど。
意識している・していないは別としても、きっと誰もがそれぞれの形でキャッチしたものを自分なりの方法で表現していると思うのです。
 
ただ、同時にもうひとつ感じるのは、本道さんのアンテナの研ぎ澄まされかたは際立っているということ。本道さんは過去への執着や未来への不安が一切ない分、今へ向けられる力が強いような気がするのです。
だからこそ、最高の一瞬を切り取って、そこにあるすべての食材を素晴らしく輝かせる料理ができるのかもしれません。
 
こんなわけで、本道さんが風を読みに行くとき、私は無性にワクワクしてしまうのです。
「今度はどんな風が吹くのだろう」、と。
 
ここまで読んでいただき、気付いた方はいらっしゃるでしょうか。
 
このマネージャー日記のタイトル「本道さんのここ吹く風」は、そんな本道さんの「今、ここの風を読む」様子を表したものなのです。


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写真は、2012年の熊本・藤岡医院「最期の晩餐」お食事会にてつくられたお料理たち。

Writer Profile

天野麻里江
天野麻里江Marie Amano

本道佳子さんマネージャー
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。法務部で契約書作成にも携わる。2011年3月、本道さんと出会って価値観が大きく変わる。2013年夏に退社。本道さんマネージャーと国境なき料理団事務局を担当し、皆様に本道さんの魅力を届けるべく活動中。
小さい頃から食べることが大好きで「おいしい食べ物は人を笑顔にする」と信じている。

本道佳子(ほんどう・よしこ)
NPO法人・国境なき料理団 代表理事。高校卒業後、単身で渡ったアメリカで世界中の料理に触れる。帰国後は野菜料理のシェフとなり、『食で世界が平和になったら』の想いを胸に、病院とのコラボ「最後の晩餐」など様々な活動を続ける。その人柄と大胆でカラフルな野菜料理は評判となり、2014年「湯島食堂」閉店後も、世界の各地で愛あるご飯をお届け中。

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