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Vol.12本道佳子マネージャー日記

Vol.12本道佳子マネージャー日記 奇跡のエビチリ

2015.03.12

昨日が3月11日だったからというわけではないのですが。
ちょうど先週、本道さんは岩手県・大槌町の「末広食堂」に行きました。
 
末広食堂は、現在の店主のご両親の代から続いてきた中華料理屋さん。
 
3.11の津波で、家もお店も失ったサワヤマさんは、NPOの依頼で中学校の給食をつくったり、仮設住宅にご飯を届けるケータリングをしたり。
そうして、震災から3年経った昨年。やっと抽選が当たって、仮設住宅の商店街に店舗を持てることとなり、2014年4月末にお店を再オープン!
 
オープン当初から、お祝いに行きたかった本道さんは、1年経ってやっと行くことができました。
 
そもそもサワヤマさんと本道さんの出会いは、震災直後の炊き出し。
 
実際に会ったのはこの4年で2回ほどなのですが、そこは、どこでも誰とでも友だちになる本道さん。
サワヤマさんを『大槌町の のび太君』と名付け、古くから知っている仲の良い友だちみたいな関係になりました。
 
 
なんだかですね、このおふたりって不思議なんですよ。
 
同い年であり、同じ料理人。この大きなふたつの共通点を除くと、あとはすべてが対照的なのです。
 
まず、性別が男性と女性であること。
そして、一方は2011年3月にお店を失くし、一方は2011年(正確には2010年末)にお店をオープンしたこと。
また、2014年4月末にお店を再オープンし、一方は2014年6月にお店をクローズしたこと。
(⇒すなわち、サワヤマさんがお店を失くしていた約3年の間、本道さんがお店をオープンしていたことになる。)
片やひとつの場所に根をおろし、その場所を守り続け、片や拠点を持たずに、日本中・世界中をまわり続けていること。
さらに、一方は、大切にしているレシピに忠実にづくり、一方は、レシピなどなく、毎回異なる料理をつくること。
 
震災直後、お父さんの代から伝わるレシピを失ったサワヤマさんは、「もう同じ味をつくることはできない、もう料理をつくることができない。」そう言って落ち込んだそうです。
 
そんな時、そもそもレシピを持たない本道さんが現れて、こう言いました。
「何言ってるんですか、サワヤマさーん。レシピなんかなくたって、料理人として経験を積んできた、自分の身体と舌が残っていれば、必ず料理はできますよー。」
 
その言葉がサワヤマさんの背中を押したのか、仮店舗ながらお店は見事に復活しました。
 
 
今回、大槌町には2泊3日、時間にするとほぼ丸2日間滞在したことになるのですが、その間に4回、末広食堂に行きました。
 
到着した日の昼と夜、次の日の昼と夕方、この計4回。
 
末広食堂は、お店を始めたご両親とサワヤマさんの3人で営業しています。
職人気質で物静かなお父さんとサワヤマさんが厨房担当、誰でも家族みたいに迎えてくれるお母さんが接客担当。初めてでも、「ただいまー」と言って入りたくなる温かいお店です。
 
メニューは、ラーメンや麻婆ラーメン、あんかけ焼きそばに炒飯といった、基本的な麺ものとご飯もの、そして餃子。
 
震災前は、チンジャオロースやエビチリなど、お酒に合うメニューも出していたそうですが、体力的に大変になってきたこともあり、ご両親とも相談したうえでメニューを絞ったそうです。
 
「もう今後もメニューを増やすつもりはないなぁ」 サワヤマさんは、そう言いました。
 
 
そして、それは2回目に訪ねたときのこと。
 
本道さんは、炒飯と餃子をオーダー。そしてこう言いました。
「全部、化学調味料抜きでお願いしたいんですー。」
 
今思えば、本道さんがそう言った瞬間、ほんの0.01秒ぐらいサワヤマさんの表情が止まった気がするのですが。
でも、顔色ひとつ変えないで「はい、了解。」そう答えて厨房へと向かいました。
 
しばらくして戻ってきたサワヤマさんが、テーブルに丼を置きます。
「はい、化学調味料なしでつくったよ。」
 
一口食べてみると、これが実においしい。
 
その感動を伝えると、サワヤマさんは「あぁ、ほんと。それどうも。」そう言って少しだけ笑ってまた厨房へと戻ります。
 
また少しして、テーブルへとやってきたサワヤマさんの手にはひとつのお皿が。
そのお皿にはメニューにないはずのエビチリがありました。
 
「なんかねー、つくってみたくなっちゃって、つくっちゃったよ。」
 
なんと!!!
 
もうつくるつもりのなかった真っ赤なエビチリが、目の前にありました。
しかも、化学調味料抜きでつくってくれたとのこと。
 
「化学調味料抜きで、味なんて決まらないって思ってたけど、やってみると案外できるもんだねぇ。」
 
少し安心したような優しい笑顔でサワヤマさんが笑います。
 
その時わかりました。
 
化学調味料抜きでお願いしたとき、サワヤマさんの表情が一瞬固まったように見えたのは、初めての挑戦だったから。
おそらく、ほんの一瞬だけ戸惑って、でもやってみようと決意したのが、あの0.01秒の表情だったのでしょう。
 
「黒板の裏に書いて、気付いた人にだけ出す隠しメニューにしようかな。」
サワヤマさんは、そんな冗談を言いながらまた厨房へと戻っていきました。
 
出ましたよ、本道マジック。
 
人の固定概念をごそっと変えてしまう、不思議な魔法。
 
それなしでは、味を決めることができないと思っていた化学調味料を使わずに、もうつくるつもりのなかったエビチリまでをも、つくる気にさせてしまう。
しかも、メニューに復活させようか、という気にまでさせてしまう。
 
『このビッグスマイルに秘密があるのだろうか・・・・・・』などと思いながら、辛みの後から、ほのかな甘みがやってくるチリソースがたっぷり絡んだ、プリップリのエビを食べていると。
 
本道さんが言いました。
「出会った頃は、『のび太くーん、大丈夫?!?』って感じだったけど、今のサワちゃんは、すっかり頼もしい中華の人だなぁ。」
 
この後、本道さんが厨房に入って、何やら2人で会話をしていました。
 
対照的なふたりが見せた「料理人 対 料理人」のかっこいい背中。
今でも私の脳裏に焼き付いています。

 
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こちらが岩手県・大槌町の「末広食堂」!
 

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化学調味料抜きのプリップリのエビチリ

Writer Profile

天野麻里江
天野麻里江Marie Amano

本道佳子さんマネージャー
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。法務部で契約書作成にも携わる。2011年3月、本道さんと出会って価値観が大きく変わる。2013年夏に退社。本道さんマネージャーと国境なき料理団事務局を担当し、皆様に本道さんの魅力を届けるべく活動中。
小さい頃から食べることが大好きで「おいしい食べ物は人を笑顔にする」と信じている。

本道佳子(ほんどう・よしこ)
NPO法人・国境なき料理団 代表理事。高校卒業後、単身で渡ったアメリカで世界中の料理に触れる。帰国後は野菜料理のシェフとなり、『食で世界が平和になったら』の想いを胸に、病院とのコラボ「最後の晩餐」など様々な活動を続ける。その人柄と大胆でカラフルな野菜料理は評判となり、2014年「湯島食堂」閉店後も、世界の各地で愛あるご飯をお届け中。

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