Vol.19本道佳子マネージャー日記 料理への心構え 〜お米編〜
2015.04.30
さて、あっという間に4月も最終日。2015年も三分の一が終わろうとしています。
あまりの早さに腰を抜かしそうになりましたけどね。
勝手ながら、良い節目のような気がしたので、本道さんがお料理をするときに大切にしていることを、こっそりお伝えしようと思います。
今日からできるほど簡単。でも、その料理の本質を決定付けるほど、大切になる心構えみたいなもの。
今回は「お米編」。ポイントは大きく分けて3つです。
まず1つ目。
「ご飯を炊くときには『塩』」
本道さんは必ず、ご飯を炊くときに塩をふります。
お米を洗い、水加減をした後に、塩を振り入れるのです。
量は特に決まっていません。これは味をつけるためではないのです。
このお塩には、お清めのような意味を込めているのだとか。
本道さんは、お米の一粒一粒が「光の種」だと言います。
その光の種をより一層キラキラさせることで、食べてくれた人も、からだのなかからキラキラと輝きますように。
こんな気持ちを込めて、フタをする直前にさっと塩を振る。
私は、お米に対する感謝と、食べてくれる人への敬意を表すための儀式のようなもののようだと、とらえています。
ちなみに、私が家でご飯を炊くときは、2〜3合のお米に対し、ひとつまみ程度のお塩を入れています。
本道さんは考えることもなく、その時のベストな分量の塩を手にとることができるのだと思いますが、私はまだそこまで出来ないので、「今日の必要な分量をお願いします」と、心のなかで呟きながら塩を手に取るようにしています。
2つ目。
「ご飯は『目の高さ』」
湯島食堂でお客様にご飯をお出しする時に必ず言われていたこと。
それは、「ご飯をよそうときは目の高さで」です。
私の記憶が正しければ、本道さんがニューヨークのレストランではたらいていた時に、こんなことがあったのだとか。
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とても慌しかったある日、外国人のシェフにライスをよそうようにお願いしたところ、そのシェフはライスを目の高さでよそいました。
本道さんが「なぜそんなふうにしているの?」と聞いたところ、シェフはこう言ったそうです。
「これは佳子の国のソウルフードでしょ? だから敬意を表してこうしているんだよ。」
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本道さんは、遥か遠いアメリカの地で、日本人として最も大切にすべき心を学んだ気がしたそうです。
これ以来本道さんは、大切なものを献上するときの気持ちでご飯をよそい、そして食べる人へと渡すことを心掛けているのです。
お茶碗を持つ手を目の高さにあげる。
たったそれだけのことですが、実際にやってみると、とても神聖なものを扱っているような気持ちになり、お米に向かう自分の神経が研ぎ澄まされるのを感じます。
最後、3つ目。
「盛りつけは、一度で高く美しく」
お茶碗の中央部分が一番盛り上がった山型になるようにご飯をよそうこと、です。
ただ、山型にすればいいというわけではありませんよ。
キレイな山型にするためだからと言って、ご飯を何度も足したり減らしたり、ましてや杓文字でペタペタと形を整えたりするのではありません。
できる限り、一度でその形を決めるのです。
私がどうしてもうまくいかなかった時、こう言われました。
「最初にお釜の中で分量を決め、そっと形を整えておくんです。それを、さっとすくって、ポンっとお茶碗に乗せる。そんなイメージです。」
本道さんが実際にやって見せてくれましたが、それはもう見事に形が決まります。
でもですね、私はもう一つ見逃しませんでした。
本道さんは、この一連の動作の後に、杓文字を山の頂上へ向かって、すーっと引き上げたのです。
ポンッ、スー・・・。
この迷いも淀みも一切ない滑らかな動作から生まれた、ご飯粒の山。
お米ひとつひとつが立って光っている、その堂々とした様は本当に美しいものでした。
お茶碗によそうこの最後の一瞬。
それは、美味しく炊き上がったお米を上手に盛りたいという気持ちが最高潮に高まる瞬間であり、自分の中から祈りみたいなものが湧き出てくる瞬間でもある。
その瞬間的な想いこそが、食べる人へ捧げる祈りとなるのかもしれません。
こうして整えられたお米は、一粒一粒に命が吹き込まれたかのようにピンと胸を張り、食べる人の前で燦然と光り輝くのです。
というわけで、今日からできるお料理の心構え。
どれも、普段の行動にちょっとした変化を加えるだけで出来る、簡単なものばかり。
味は変わらないかもしれません。
でも、ただ「ご飯を炊いてお茶碗によそう」というだけの日常的な行動に、こうした意識を乗せることが心身にもたらす効果の大きさは計り知れないと私は思っています。
この日記で時々書いている「料理に気持ちを込める」方法というのは、実は少しも難しいことなどなく、今、目の前にあるものに真摯に向き合うこと。
そして、本道さんが持っている食材や人に対する畏敬の念こそが、食材に新たな命を吹き込み、食べた人の細胞一つひとつを活性化させる料理の土台となっているのでしょう。
皆様、よろしければご自宅で、大切に丁寧に試してみてくださいね。
おむすび雪だるまのカップル
少しおめかしをおむすび雪だるま