楽しみ、楽しませ、ほんのちょっと楽になる

Vol.32本道佳子マネージャー日記

Vol.32本道佳子マネージャー日記 あきらめない世界

2015.11.05

10月7日にお食事会を行いました。
その名も 『お仕事帰りに秋の野菜を楽しむ会』。
 
そのお食事会に、耳が不自由だという方からのお申し込みが二組ありました。
 
その方々は、9月に放送されたフジテレビ系「ザ・ノンフィクション」で本道さんのことを知り、申込んでくださったとのこと。
ただ、いただいたメッセージからただならぬ緊張が伝わってきたので、この方々にも楽しんで帰っていただこうと、私は心に決めたのでした。
 
ちなみに、私が意味する「楽しんでいただく」とは、料理はもちろんのこと、本道さんのお話も聴いてもらうこと。
 
『本道さんのお話を聴く』ことは、『本道さんの料理を食べる』のと同じぐらい、大切なパワーを持っている。私はそう思っているのです。
 
本道さんのイベントでは大抵の場合、お食事タイムと本道さんトークタイムを設けているので、耳が不自由な二組の方々にも、トークタイムまでしっかりと楽しんでいただきたい。そう強く思ったのでした。
 
 
そして迎えた当日。
 
メッセージをくださった二組のお客様のうち、一組は女性おひとりで、もう一組は男女おふたりでの参加でした。
 
おひとりで来た女性から、「ゆっくりと話せば多少は聞き取れる」、そして「聞こえなくもて口元が見えれば、少しは理解できる」と言われていたので、声が聞こえやすそうな前の席へとご案内。
 
おふたりでいらした男女は、後ろの席へと座られました。
耳が不自由との連絡は女性からだったので、一緒にいる男性が通訳をしてくださるのかもしれないと思い、この時は前の席へのご案内をしませんでした。
 
 
食事タイムの途中で、本道さんからメニューの説明が始まります。
 
前の席へ座った女性は、やはり声が少し聞こえづらいということで、私がその女性の目の前で本道さんの話を説明することにしました。
手話はできないけれど、ゆっくりはっきりと口を動かせば少しは伝えられると思ったからです。
 
食事タイムの後は、本道さんのトークタイム。
引き続き、その女性の前で、本道さんのお話を伝えることにしました。
 
その時にふと気になって、後ろに座っていたおふたりのもとへ行き、お話が聞こえているかを確認したところ。
実は、一緒に来ていた男性も耳が不自由だったことを知りました。
 
このおふたりは、さっきのメニュー説明が何も聞こえていなかったんだ・・・・・・。
そう思ったら申し訳なくて、心の中でガクンとうなだれました。
 
謝ると、その女性は微笑みながらこう言ったのです。
 
「いつものことだから大丈夫です。もうあきらめていますから。」
 
モウアキラメテイル。
 
この人たちは、いつもこんな思いをしているのかと思ったら、うなだれた頭に、とどめを刺されたような気持ちでした。
 
でも、そこで私が落ち込んでいても何の意味もなく。
もう一人耳の不自由な方がいること、その方に向けて私が説明することを告げて、前のお席へとお誘いしました。
 
おふたりは少しためらいながらも席を移動してくださり、耳の不自由な方が3名並びました。
すると。その二組は初対面にも関わらず、手話で会話を始めたのです。
 
私が3名に本道さんの話を伝える。3名それぞれが、ところどころ理解できた内容を手話で伝え合う。
そんな流れができあがりました。
 
そうしてしばらくすると、お客様の一人が声をかけてくださいました。
「少しだけ手話を教えてもらったことがあるから、私でよければ筆談と手話で皆さんに伝えますよ。」
 
ご自分も楽しみに来てくださっているのに、自らお手伝いを申し出てくださったお客様。
手話に自信はないんですけどね、と控えめに言ったその女性への感謝、私は忘れません。
 
その方のおかげで、3名は本道さんのお料理とお話をたっぷりと楽しんでくださいました。
 
 
帰り際、3名が私の元へ来て口々にこう言ってくださいました。
 
「今日は本当に楽しかった。最初は不安だったけど、これからは安心して来られます。」そして、今後はお料理教室にも行ってみたいとも。
 
そうした言葉が私は本当に嬉しくて。
でも、手話ができないからスムーズに話を伝えられなかったことを謝りました。
 
すると3名は、キラキラとした笑顔でこう言ったのです。
 
「大丈夫、心でわかりますから。」
 
『もうあきらめているから大丈夫』だった気持ちが、『心でわかるから大丈夫』に変わっている。
 
小さなことかもしれないけれど、私にとっては奇跡みたいな出来事で。
目の前で起きた小さな奇跡に、ぐっと込み上げてくるものがありました。
 
 
翌日。この食事会の一連の出来事から感じたことを、本道さんと、たくさんたくさん話しました。
 
そして、こういう結論になったのです。
 
すべての人が、「楽しいこと」「嬉しいこと」を「あきらめない世界」をつくりましょう。
 
簡単なことではないかもしれない。キレイゴトと言われるかもしれない。
でも私たちは、「あきらめない世界」をつくることをあきらめない。
 
 
そう、どんなに小さくたって、私にもできることは必ずあるはずだから。
 
と言いながら、私は時々あきらめそうになったりもしちゃうんですけどね。
 
でも、そんな時は思い出します。
あの3名がくれたキラキラの笑顔、そして「心でわかる」という言葉。
 
11月は、おひとりで来てくださった女性が料理教室に参加してくださいます。
本当に楽しみ!
 
さて、私には何ができる?
 
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「自然栽培のなかまたち」のにんじんとゴボウで作った一皿
 
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「新潟ハーブランドシーズン」の冬瓜のお味噌和え

Writer Profile

天野麻里江
天野麻里江Marie Amano

本道佳子さんマネージャー
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。法務部で契約書作成にも携わる。2011年3月、本道さんと出会って価値観が大きく変わる。2013年夏に退社。本道さんマネージャーと国境なき料理団事務局を担当し、皆様に本道さんの魅力を届けるべく活動中。
小さい頃から食べることが大好きで「おいしい食べ物は人を笑顔にする」と信じている。

本道佳子(ほんどう・よしこ)
NPO法人・国境なき料理団 代表理事。高校卒業後、単身で渡ったアメリカで世界中の料理に触れる。帰国後は野菜料理のシェフとなり、『食で世界が平和になったら』の想いを胸に、病院とのコラボ「最後の晩餐」など様々な活動を続ける。その人柄と大胆でカラフルな野菜料理は評判となり、2014年「湯島食堂」閉店後も、世界の各地で愛あるご飯をお届け中。

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