Vol.25本道佳子マネージャー日記
奇跡のキャロットケーキ
2015.07.09
前回のvol.24で突然書きました、本道さんの子供時代。せっかくなのでその続きを、ほんの少しご紹介できればと。
世界中の美味しいものが食べられると思って、ニューヨークへ旅立った本道さん。
意気揚々と海を渡ったのはいいものの、英語を話すことができず。
偶然知り合った日本人女性に協力してもらいながら、家やはたらき口を探したそうです。
そうしてたどり着いたのは、とあるケーキ屋さん。
チーズケーキが有名で、本道さんもそのお店のチーズケーキが大好きだったのだとか。
人を募集しているかどうかもわからないまま、いきなりお店に行って、「ここではたらかせて欲しい」と伝えたそうです。
まだニューヨークに日本人がそんなに多くない時代、ほとんど見かけない女性シェフ、そこに加えて英語が話せないときたら、採用するほうも躊躇しそうなものですが。
本道さんのビッグスマイルのなせる業か、オーナーさんによる人を見る目の確かさ故か、はたまたその両方かはわかりませんが、すぐに採用が決まったそうです。
本道さんは、そこでキャロットケーキづくりを任されました。
皆さんは、キャロットケーキをご存知ですか?
私もそんなに詳しいわけではありませんが、最近日本でも見かける機会が増えたように思います。
キャロットケーキは、すりおろしたにんじんに、ナッツやレーズン、シナモンなどを加えて焼いたケーキに、クリームチーズのフロスティング(砂糖と混ぜてペースト状にしたもの)をのせたもの。
にんじんの甘さの中でほんのり引き立つスパイスの香り、ナッツやレーズンの異なる食感、そこに酸味と甘さをバランスよく保ったクリームチーズが加わるこのケーキは、カフェで見かけると、つい頼んでしまう一品です。
あー、書いていたら食べたくなってきました。
と、話が逸れてしまいましたが。
本道さんにとって、アメリカでの出発点ともいえる、このキャロットケーキ。
今は、お客様向けには卵も乳製品も使わない野菜料理しかつくらないので、このキャロットケーキが登場することはないのですが、いつかこのキャロットケーキを習う秘密の会が開けたら素敵だなぁと心の奥で思っています。
さて。ニューヨークでキャロットケーキをつくっていた頃から、時が流れること約15年。もしくは、もっと経った頃でしょうか。
本道さんは、日本で、あるアーティストの方と知り合いました。
話をしているうちに、まったく同時期にニューヨークにいたことが判明。
もちろん当時はお互いを知るはずもなく、同じ時期に同じ場所で過ごしていた有志として、互いの思い出話に花を咲かせていたそうです。
ところが、話を進めていくと。実はその方、当時ニューヨークで、本道さんがはたらいていたお店に通っていたのだとか。
しかも、一番好きだったのはキャロットケーキ。
そう、その人がニューヨークでいつも食べていたキャロットケーキは、まさに本道さんがつくったものだったのです。
本道さんがそこではたらいていた期間は、せいぜい8か月ぐらい。
その方と時期が重なるのは2カ月ぐらいだそうですが、その人が本道さんのつくっていたケーキを食べていたのはほぼ間違いなく。
当時まったく知らなかった2人が、キャロットケーキで繋がっていたなんて、すごい巡り合わせだと思いませんか?
そして、この話にはさらなる続きがありまして。
本道さんは、その人と話す中でこう感じたそうです。
「この人の心が、本当はもっともっと大きな絵を描きたいって言っている気がする。」
本道さんがそう読み取ったことがきっかけとなったかどうかはわかりません。
でも、本道さんと出会った後、そのアーティストさんは、もう行うつもりのなかったニューヨーク個展の開催を決め、もう描くつもりのなかった絵を描きました。
大きな絵をたくさん飾ったその個展は、大成功を収めたのだとか。
その個展が終わった後、その方は本道さんに1枚の絵を渡しました。
それは、大きなキャンバス一面に描かれた、真っ赤な花の絵。
湯島食堂の真っ白な壁に掛けられたその絵は、いつからか、「あの赤い絵の前で写真を撮ると奇跡が起こる」といわれる、伝説の絵となりました。
赤い花の絵
本道さんがニューヨークにいた頃につくったケーキ
湯島食堂で飾られていた絵